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メンバーコラム

「アトムの買物」

2014.08.7 Thu

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2001年、「A.I.」という映画を観て思ったことがある。ロボットもしくはアンドロイドと呼ばれるモノはどうやって買い物をするんだろう?

もし仮にこれから数十年後の世界で、ロボットが人間の代わりに買物をするようになっているとしたら、数多くの似たような商品の中からどうやってたったひとつの商品を選ぶのだろうか?果たして、ブランドで品物を手に取るのだろうか?人間は、広告やなんとなくの好き嫌い、はたまた適当にひとつのものを選べるかもしれないけど、機械的な思考を前提とするロボットだったとしたらどうやって合理的な正解を求めるのか。そのときに作り手や送り手はどういった計算と設計を行えばいいのだろうか。つねに頭の片隅にあって、とはいえ別に深く考えたこともなく、答えを求めることもなく、たらたらと考える私のテーマであり悩みである。

合理性と非合理性もしくは感情、ロボットと人間を分け隔てるもの、人文社会科学と自然科学というポレミカルなテーマだからこそ自分には手に負えないとわかっている。しかし、こうして技術革新が進むとコマーシャルな世界に身を置く自分としてはこうした近未来の現実を想像しないわけにはいけない。

ロボットには「ロボット工学三原則」によって人の命令に忠実であることが予め定められているそうだ。ならば雇主である人間の嗜好を正しく理解すれば、“雇主の満足度”という絶対的基準で買物をすることができるわけでロボットは迷わずに済むかもしれない。でも、そうすると雇主は新しい出会いや、期待を裏切るような発見は得られにくくなる。欲しいはずのものを買ってきたはずなのに怒られる不満をつのるロボットで街は溢れかえってしまう。HALと呼ばれた名コンピューターのように繊細な思考回路をもったロボットだったらもう人間にうんざりってことになるわけで…。

このテーマにおける悩みはこれだけで終わらない。仮に、もし雇主が買ってきて欲しいと注文した製品が誰かの犠牲の上で生産されているものだとしたら。たとえば、レアメタル、たとえばコーヒー、たとえばヤシの実油…。そうした一見良さそうなものでも誰かの犠牲に成り立つ製品をロボットは買うことができるか。先ほどのロボット工学三原則の第二条には「人間を傷つけることができない」と定められているわけだが、この原則は果たして間接的な因果においても働くのだろうか。もし働くのであれば、フェアトレードでないもの、有限な資源を大量に消費して生産されるものはロボットにとってはとても厳しい選択になるのではないか。果たして、こうした人間の矛盾する選択を彼らは合理的にどう解決するのだろうか。

疑問ばかり浮かぶこのテーマ。答えはない。答えはないが、デジタルとアナログ、合理性と非合理性が妥協し得る結合領域があるのだと思う。利己的な消費行動と意識を持つ人間のさらに深いところに、全人類が共通して持つ普遍的な価値観があって、それが実は原始的でロボットさえも理解できる基準となりえるもの、そんなマトリックスがあるのではないかだろうか。いや、理屈はない。ただそう思うと、目の前の仕事に取り組める。それだけである。理屈はまた後から。